厚生局の薬局個別指導、監査の公表された実例
ここでは、厚生局による薬局への個別指導、監査が実施され、その結果、保険薬局の指定の取消処分(または取消相当の取扱い)となった実例の概略を4例、ご紹介します。
なお、薬局の指導監査の流れ、プロセス、対応の留意点、指導監査・取消処分の実施件数の統計、不正事由、保険薬局の取消処分の実例などについては、以下の弁護士のコラムが参考になります。
厚生局の個別指導を知るためには、実際の薬局薬剤師の取消処分・取消相当の実例を把握することが重要です。指導監査の全体の仕組み、流れを知ることで、個別指導での持参物の趣旨、厚生局の担当官の狙い、担当官の個別指導での発言の背景など、推測できるようになる側面があります。
事例1 薬局の情報提供での個別指導
厚生局への情報提供による個別指導を端緒に、保険薬局の指定の取消し、保険薬剤師の登録の取消しとなった実例です。取消処分となる事例では、高点数ではなく、情報提供による個別指導をきっかけとすることが多く、情報提供で個別指導となった場合は、情報提供の具体的な内容を推測しつつ、慎重に指導に対応する必要があります。
【事案の経緯・概要】
景品等の配布、また、一部負担金の減免が行われているとの情報提供があり、平成19年度に個別指導を実施し、その後も、毎年度、薬局に個別指導が実施されました。平成27年2月、薬局に個別指導を実施したところ、お薬手帳へ貼付または記載をすることなく、手帳用シールを提供(手交)したのみ(この場合、34点)であるにもかかわらず、薬剤服用歴管理指導料(お薬手帳へ手帳用シールを貼付または記載をした場合、41点)を一律に算定しているとの説明がなされたこと、薬剤服用歴の記録について不自然な点が認められ、それらに対する明確な回答が得られなかったことから個別指導を中断し、平成27年5月、個別指導を再開したところ、薬剤師から、薬剤服用歴の記録に関し、ほぼ全ての患者について服薬指導の要点等を記録していないにもかかわらず、薬剤服用歴管理指導料を算定していたとの説明がなされたことから、調剤内容及び調剤報酬の請求に不正又は著しい不当が疑われたため、個別指導を中止し、監査の実施に至りました。
監査の結果、請求できない調剤報酬を不正に請求していたこと、具体的には、薬剤服用歴の記録に、服薬指導の要点等の記載をしておらず、過去の薬歴に基づく服薬指導等を行っていないにもかかわらず、薬剤服用歴管理指導料を請求していたことが確認・事実認定され、そこで、保険薬局の指定の取消処分となりました。当該事例は、幾度にもわたり個別指導で指摘などがなされていたにもかかわらず、改善がなされなかったことが、取消処分が選択された一つの要因と思われます。
事例2 薬剤師の無資格調剤での取消相当
本来、薬剤師でなければ調剤ができないわけですが、薬剤師の資格がない無資格での調剤が行われていたことなどから、保険薬局の指定の取消相当となった実例です。薬剤師でなければできない業務と、薬剤師ではないスタッフでもできる業務の線引きはあいまいな部分があり、思い込みで自らに有利に解釈・判断するのではなく、きちんと最新の情報にキャッチアップしつつ、認められている範囲で無資格者に業務を行っていただくことが重要です。人手不足で業務が回らないときは、スタッフに違法に補助させるのではなく、業務を縮小する判断をすべきことになります。
【事案の経緯・概要】
東海北陸厚生局に、警察署から保険薬局の無資格者の調剤に係る調剤報酬の保険請求行為について電話照会があり、その後、警察が保険薬局の開設法人、代表者及び事務員3名を薬剤師の資格がない事務員に調剤させていたとして、薬剤師法と薬事法違反容疑で検察庁に書類送検したという新聞報道があり、この報道から無資格者が行った調剤について調剤報酬の不正請求が疑われたため、検察庁において訴訟記録を閲覧及び謄写したところ、事務員に調剤させたこと、本来は閉局している時間帯において、11回にわたり事務員に薬局を開局させ、管理薬剤師に実地に管理させなかったことを確認し、そこで、監査の実施に至りました。
監査の結果、付増請求、無資格者調剤、調剤録への不実記載の各事実が確認、認定され、そこで、保険薬局の指定の取消相当となりました。
事例3 薬局薬剤師の監査拒否での取消し
監査拒否、監査の不出頭での保険薬局の指定の取消相当、保険薬剤師の登録の取消しの実例です。個別指導では、正当な理由のない欠席をすれば監査に繋がりますし、監査で正当な理由のない欠席をすれば、取消処分に結び付きます。指導監査となった場合は、仮に不適切な請求をしていたとしても、あきらめずに、指導監査を受けて立ち、適切な対応をしていくことが重要です。
【事案の経緯・概要】
患者から都道府県を通じて厚生局に対し、医療費通知に調剤を受けていない薬局が記載されているとの情報提供があり、そこで、個別指導を実施したところ、薬剤師が保険薬剤師の登録のない期間に保険調剤していることが疑われたことから個別指導を中断し、患者調査を実施したところ、未登録期間に薬剤師から保険調剤を受けた旨の回答があり、提示を受けたお薬手帳又は薬剤情報提供文書に当該薬剤師の記名押印が認められたことから、調剤報酬の不正請求が疑われました。一方で、個別指導の再開を通知したところ、廃止届が提出され、そこで、さらに患者調査を実施したところ、未登録期間に薬剤師から保険調剤を受けた旨、回答があり、不正又は著しく不当な調剤報酬の請求が強く疑われたため、監査の実施に至りました。
監査の通知をしたところ、元保険薬局の開設者である有限会社は、調剤録その他の帳簿書類を提出せず、出頭を拒否し、また、元保険薬局の保険薬剤師も、出頭を拒否したため、保険薬局の取消相当、保険薬剤師の取消しとなりました。
事例4 薬局での虚偽の処方せんでの不正請求
薬局での虚偽の処方せんによる、調剤報酬の不正請求(架空請求)での元保険薬局の指定の取消相当、保険薬剤師の登録の取消しの実例です。当然ですが、虚偽の処方せんによる不正請求は悪質な不正請求であり、露見すれば、厳格な対応がなされると思われます。薬局の経営者はもちろん、管理薬剤師、勤務薬剤師においても、そのような不正請求には絶対に加担しないことが求められます。開設者・経営者の指示だったとしても、薬剤師として、専門家として、免責はなされないものとお考え下さい。
【事案の経緯・概要】
保険薬局に対し個別指導を実施したところ、特定の医療機関から虚偽の日付を交付年月日に記載した処方せんを受けて欲しい旨依頼され、それに応じ調剤を行った旨の発言があり、不正請求が強く疑われたため、監査の実施に至りました。
監査の結果、調剤報酬の架空請求、すなわち、実際には行っていない保険調剤を行ったものとして調剤報酬を不正に請求していたこと、及び、調剤報酬の付増請求、すなわち、実際に行った保険調剤に行っていない保険調剤を付け増して調剤報酬を不正に請求していたことが各確認され、そこで、元保険薬局の取消相当、保険薬剤師の取消処分となりました。
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